★湯灌

1月3日

寺田は入浴用の移動ベッドにたかじんを乗せ、入浴室へ向かった。たかじんをベッドに乗せたまま湯船で体を洗った。午前4時頃葬儀社の人が来て、事務手続きを終えて病院を出た。


【引用純愛 385P】
葬儀社の人が遺体を袋に入れてファスナーを閉めるのを見て、さくらはたまらない気持になった。
(中略)
ワゴン車の後ろに遺体を乗せ、さくらはその横に座った。マンションに戻る途中、さくらはファスナーを少し開けた。
「こんなことを言うと変に思われますが、ハニーの息が詰まるような気がしたのです」

マンションに戻ってたかじんをベットに寝かせると、赤いジャケットを着せた。
葬儀社の人と、密葬とする、戒名は付けないことを告げた。葬儀場、柩、花などの打ち合わせをし、火葬は1月5日に行うことにした。

午後、松本哲郎、Kマネ、弁護士に電話すると、それぞれ今日行くとの返事だった。Kマネは「ああ、そうですか。お疲れさまでした」と、あっさりした口調で言った。松本にだけは来てから死を知らせた。
Kが来た。「Uも下に来ている、呼んでくる」と言ったがさくらは断り、押し問答となった。さくらは「ハニーが密葬を望んだ、皆に言うと報道される、それは個人の意思ではない」と言った。

【引用純愛 389P】
「何じゃあ、お前!」Kは大きな声を上げた。「師匠の気持は俺が一番わかっとるんや。俺のオカンが死んだときみたいに、みんな呼んで顔触らせるんや」
「Kさんのお母さんと一緒にしないでください」さくらも負けずに大きな声で言い返した。
「やしきたかじんは私の夫です。妻の私が、夫に言われた通りにやります」
「お前なんか、妻でも何でもないわ、俺のほうが師匠をずっと思ってるわ」
「それなら、どうして、彼が一番大事なときに女遊びなんかしてたんですか」
「なんでお前にそんなこと言われなあかんねん、師匠が何も言わへんかったんやから、ええやないか」
(中略)
「ハニーから私を助けろって言われたでしょう。誰にも言うなって言われたでしょう」
「うるさい!」とKは言った。「誰がお前なんか助けるか、会社も何も勝手にせいや。俺は辞める」
「わかりました。それでは、後日、やしきたかじんが亡くなったことを知らせるために、会社関係のリストをください。それくらいはしてください」
「何でそんなんせなあかんねん。お前一人でやれや。P、I、Sも一人でやれ。俺は辞めたらあ」

Kが帰った後、さくらと松本が話しして、長女と前妻を呼ぶことにした。松本がじんちゃんは前妻に来てほしいはずだと進言した。

★湯灌と納体袋

まず以て驚くのは、死後のたかじんを病院の入浴室で湯灌を行った事だ。そこは一般の入院患者が使用するところなのでにわかに信じ難い。もし本当なら聖路加国際病院の倫理管理が疑われる。通常はエンジェル・サービスまでが病院の役割で、遺体を入浴させる場合は葬祭業者が専用設備で行うのが通例である。
疑うときりがないが、たかじんの遺体を第三者に見られたくない事情が有ったのだろうか。食べ物を詰らせて救急搬送されたとの報道、遺体を「納体袋」に入れてマンションまで運んでいる事と併せて疑問が増幅する。

▼湯灌・納体袋については下記引用を参照

湯灌とは、葬儀に際し遺体を入浴させ、洗浄すること。簡易には遺体を清拭(せいしき)することで済ませる場合もある。故人が男性の場合はその際に髭を剃られ、女性の場合は死に化粧が施される。地域差があり、一般的ではない地域もあるとされる。
葬祭業者の手によって行われ、自宅で葬儀を行う場合などでは給排水装置を積んだ専用車が手配され、葬儀会場へ専用の湯船が搬入される。看護師による簡易な清拭は「エンジェル・サービス」と称される(ウィキペディア)

この本に登場する葬儀屋さんは故人の写真を撮ることを優しい声ですすめた、として好意的に書かれています。しかし病院から自宅へ搬送するときご遺体を納体袋(腐乱死体や警察業務などの際、遺体を収める袋)に収めたため搬送途中で奥さんが「息が苦しそう」ということで、こっそり袋のファスナーを下ろす描写があります。
一般的な病院業務では布担架は使うかもしれませんが、納体袋はコストもかかるうえ
モノ扱いの印象を与えるので、通常使いません。もちろん普段から使っている葬儀社は存在しない、とはいえませんが・・・
あんまり良い葬儀屋さんではなかったのかもしれません。 (考える葬儀屋さんのブログ)

▼納体袋用途
1.一類感染症、二類感染症、三類感染症又は新型インフルエンザ等感染症の病原体に汚染された遺体。
2.血液・体液・排泄物等による接触感染リスク暴露の防止。
3.屋内や野外の遺体の一時期的な安置。
4.又、その後の腐敗臭の防止。
5.損傷のある遺体や腐乱したご遺体におけるプライバシー保護など。
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(モレーンコーポレーション/納体袋が必要な場合)

さくらがたかじんの希望として密葬を主張しているが、さくらが考えているのは事実上「直葬」であり、通夜も葬儀もなく火葬とする形だ。身寄りも側近もいない天涯孤独の身とは比較にならない、著名人であるたかじんの送り方としては異常事態であり、Kマネが激怒するのは当然である。
それにしても松本哲郎に一番最初に連絡し、誰よりも早く掛け付けていたのは何故なのか。その後もさくら側に立った発言を繰り返すのだが・・・。


★殉愛では松本が長女と前妻を呼ぶことを打診したことになっているが、実際は違うようだ。

たかじん長女に連絡しないと言うさくらと、そんな訳にいかないと言うKマネが激しく口論となり、さくらは娘への連絡を渋々了承した。 (週刊文春)

さくらはたかじんの遺言で、さくらとたかじんが親しかった大阪の会社社長だけで密葬を済ませてくれと言われていると主張した。(角岡伸彦著・ゆめいらんかね やしきたかじん伝)

たった一人の娘や親族にも知らせようとせず、Kマネの参列をも阻止しようとするさくらは、一体、何を企んでいたのか。遺産狙いで次々と夫を殺害した京都の筧千佐子と親族縁者を遠ざける発想が似ている。