【引用 :殉愛27P】
2005年に帰国してから、大阪で会社を営む伯父のもとで秘書を務めながら、海外を何度も往復した。

【引用 :殉愛44P】
病院に行くことを強く勧めると、たかじんも少しその気になったむ。
「どこがいいかなあ」
「北野病院なら、私の伯父が会員だから、すぐに行けますよ」

【引用 :殉愛88P】
それとマンションを貸してくれていた伯父に、「二月三日まで日本にいる」と連絡した。

【引用 :殉愛88P】
さくらは伯父から頼まれた通訳の仕事があって、たかじんのマンションに行けなかった。

【引用 :殉愛111P】
三月二十四日、さくらは昨年秋から借りていた伯父のマンションを引き払い、たかじんの向かいのマンションに引っ越した。

【引用 :殉愛136-137P】
四月二十三日、さくらは思い切って伯父に電話した。
彼女はイタリアに渡るまで、伯父が社長を務める会社で秘書をしていた。伯父は七十歳を超えていたが年齢を感じさせない精力的な男だった。「おさないころからさくらを非常にかわいがってくれ、彼女が二十一歳でカトリックの洗礼を受けた時のゴッドファザー(代父)でもある。さくらに第二の人生を与えてくれた人だった。
余談だが、さくらは秘書時代に伯父の株式の運用を任され、二年間で一億円近い利益を出していた。伯父は姪に実業家の才能があると見て、「いつか起業するなら、いつでも投資してやるぞ」と言っていた。彼は実際に、起業する若者に投資した事もある。
伯父は姪からの久しぶりの電話に喜んだ。
「マンションを引き払ってイタリアに帰ったと思っていたのに、まだ日本におったんか?」
伯父はさくらがたかじんと一緒にいることを知らなかった。
「その話しはいずれ詳しくします。今日は、伯父さんに投資してもらおうと思って電話しました」
「会社を興すのか?」
「そうではないんですけど、どうしてもやりたいことがあって、お金が必要なんです」
「何に使うんや?」
「今は言えません。ですけど、必ず返します。お金を貸して下さい」
「事業内容も聞けないのに、金は貸せんな」
「ある医療器具を買いたいのです。多くの人が助かります」
伯父はしばらく黙っていたが、やがて言った。
「なんぼいるんや」
「一億円」
(中略)
「お前な」と伯父はたしなめるように言った。「一億と言うのはすごい金やぞ。担保もなしに貸せる金やない」
「はい」
「そやけど、お前がそこまで言うんや。五千万円なら貸してやる」
「一億円貸してほしいんです」
伯父は電話の向こうで大きなため息をついた。
「住んでるのはどこや?」伯父は言った。「小切手を持っていかせる」
「伯父さん、ありがとうございます」

【引用 :殉愛153P】
午後、さくらは仕事で東京に出て来ていた伯父と日本橋の「マンダリン オリエンタル東京」で食事した。
前に電話で話してはいたが、会うのは半年ぶりだった。
「随分痩せたなあ」
伯父はさくらの変わりように驚いた。
「伯父さん、前に送ってもらった小切手、使わなかったから返します」
さくらは一億円の小切手を伯父に渡した。
「この金、何に使うつもりやったんや」
「好きな人の病気を治すために使うつもりでした」
「それは誰や」
「やしきたかじんさん」
伯父は一瞬ぽかんとした顔をしたが、すぐに納得したようにうなずいた。
「まさか、たかじんとはなーーー。ガンらしいな」
(中略)
「いつ死ぬかわからへんのにーーー」伯父がぼそっと言った。「それでもええのか」
さくらはうなづいた。
伯父は小さな声で「そうか」と言うと、バックをさくらの前に置いた。
「五千万円ある。本当に困った時に使え」
さくらは伯父の優しさに泣きそうになった。
「やるんと違うぞ。貸してやるだけや」
伯父はぶっきらぼうに言った。